fhána blog
2019/08/02

レクイエム|佐藤



 fhána1年半振り、14枚目のシングル「僕を見つけて」のMUSIC VIDEOが公開された。「World Atlas」と「STORIES」を挟んでいるが、シングルとしては「わたしのための物語」からずいぶんと時間が経ってしまった。

 今回ビデオは木場、写真は西新宿でどちらも高層ビルの屋上で撮影したのだが、実は過去最大級に困難を極めた撮影だった。ふつうに日がある時間帯でもなく、完全な夜景でもない。陽が沈む瞬間の、本当に10分くらいしかない一瞬の幻想的な光のなかでの演奏。

 とくにビデオは、騒音の問題もあって、なかなか撮影許可の降りる建物が見つからなかった。メンバーだけなら、完全に当て振りで静かに撮影できなくもないが、今回は絶対にこの曲のアレンジの要である、ストリングス隊と一緒に撮影したかった。

 通常は、一台のカメラでセットチェンジをしながら何度も撮影をして編集で繋いでいくが、今回はとにかく時間がないので、複数のカメラで同時に撮影を行った。カメラ一台につき3〜4人の技術者が必要になるので、このビデオは見かけのシンプルさ以上に、大掛かりな撮影になったのだった。

 もちろん天気の問題もある。梅雨時を避けて公開に間に合うギリギリの7月頭に撮影したのだが、今年の梅雨は長かった。写真もビデオも、雨が降ったり止んだりのなか、奇跡的に一番いい時間帯は雨が上がり、無事撮影することができた。

 この儚くも美しい光を堪能して欲しい。

◇◇◇

 曲の話をしようと思う。今回、僕は「ナカノヒトゲノム【実況中】」というTVアニメに音楽プロデューサーとしても携わっていて、劇伴、挿入歌、オープニング、そしてこのfhánaによるエンディングと、この作品の音楽全体を担当している。だからもちろん、作品からインスピレーションを得て、作曲し、歌詞の発注をした。

 最初にワンコーラスのデモが出来たのは去年の12月だった。「僕を見つけて」というタイトルは僕が付けたのだが、ゲーム実況者をはじめインターネットで活動する人たちは、自分のことを誰かに見つけて欲しい、認めて欲しいという気持ちがあるのではないか?そしてそれはゲーム実況者だけでなく、誰もが持っている普遍的な欲求なのではないか?と思って、このタイトルを付けた。「承認」と「訣別」「旅立ち」がテーマだ。

 そんな中、僕が18年間一緒に暮らしていた、ポンちゃんという猫が年末に亡くなってしまった。とても長生きをしたし、後悔は無いけれど、大きな喪失感を抱えて、フルサイズを作曲し、レコーディングを行うことになった。自ずと、この曲はポンちゃんへのレクイエムとしての側面を帯びていった。作詞の林くんも、第一稿を書いてくれたときから「ポンちゃんのことは脳裏にあった」と言っていた。

 サビの歌詞の中で、「君から離れて旅立とう」というフレーズが出てくるが、この曲はここを歌うために、この瞬間に向かって、すべてのメロディと言葉たちが収束して行っていると思う。たくさんのことを話したいけど、何かがまだ胸に残ったまま。もう君と話すことは出来ない。けれども、君が僕を見つけてくれたから、君がいたから、大切なものをたくさんもらって、僕は強くなることが出来たんだ。
 
 また、この曲は最後の約2分間はそれまでとまったく違う展開になっている。最初からそうしようと思っていたわけでなくて、ポンちゃんのことがあったから、この後半のパートが自然と出て来てしまった。5分までは“永遠の別れ”について歌っているが、最後の2分間は、“再会”について歌っている。もちろん、物理的には「帰りたい場所」はもう存在しないし、もう二度と会うことは出来ない。けれども、精神的には、また会うことが出来る。そんな祈りを最後の2分間に込めた。

◇◇◇

 そうやって「僕を見つけて」は完成し、カップリング曲のレコーディングとトラックダウンを行い、発売に間に合うギリギリでマスタリングも終えることが出来た。その数日後、あの事件が起こった。
 
 京都アニメーションの事件だ。今でも信じられないし、色々な感情を整理することが出来ないままでいる。

 大勢の方々が犠牲になり、ご家族やご友人や関係者の方々が悲しんでいるなか、安易に楽曲と結びつけるべきではないけれど、それでも、もともとレクイエムとして作ったこの曲が、亡くなられたクリエイターたちと、その作品を愛するすべての人たちに捧げられているように、どうしても感じてしまう。眉をひそめたり、胸を痛めたりする人がいたら、本当に申し訳ないのだけれど、そんなふうに今感じていることを、ここに残しておきたい。

 僕は京アニによるTVアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」に感銘を受け、その流れで見た京アニ版の「CLANNAD」に感動して、ちょうどその頃出会ったfhánaメンバーたちと「CLANNAD」の話で意気投合し、このメンバーでバンドを結成しようと思った。そして「小林さんちのメイドラゴン」ではオープニングテーマの「青空のラプソディ」を作らさせていただいた。今のfhánaがあるのは、京アニがあったから。

 京アニの作品たちが、たくさんの大切なものを与えてくれて、縁を繋いでくれた。亡くなられた方々に会うことは出来ないけれど、彼らが残してくれた作品の中で会うことが出来るし、その魂は未来に受け継がれ、必ず新しい作品として再会することが出来る。そんなふうに、僕は信じている。

佐藤純一